2011年9月25日日曜日

戻ることも進むこともできないユーロ圏

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JB Press 2011.09.22(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/23240

ユーロ圏の解体がとてつもなく難しい理由
(2011年9月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 ユーロ圏の加盟国は、こんな買い物をしなければよかったという激しい後悔に見舞われている。
 多くの人は、20年近く前に購入し、1990年代終盤から2000年代にかけて組み立てた部品一式を分解したいと思っている。

 だが、分解はできず、欧州の協調構造全体と一緒に壊すしかない。

 一方、世界は怯えながら、ユーロ圏で相次ぎソブリン債務・銀行危機が勃発するのではないかと事態を注視している。
 もしそうなっても、欧州の愚行が世界に破滅をもたらすのは初めてのことではない。

 欧州統合プロジェクトの原動力となった理想主義は消え去った。
 自己利益はその代用として不十分なことがはっきりしてきた。
 苛立つ有権者に対して責任を負う各国の政治家の不手際は、事態をさらに悪化させている。

 ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)の欧州担当チーフエコノミスト、ジャック・カイユ氏は、最近のリポートで政治家の失態を強調している。
 同氏によると、ユーロ圏の指導者たちは危機の規模と本質を理解できず、よく考えもせず国内の観衆向けに演技し、悪しき融資は悪しき借り入れと同じくらい非難に値するにもかかわらず、不届き者を裁くことに専念してきた。

 カイユ氏は正しい。
 そして今、2つの新たな要素が加わったと同氏は指摘する。
 1つ目は、ドイツの世論が中央銀行に背を向け始めたこと。
 2つ目は、オランダのマルク・ルッテ首相を含む多くの政治家が、強制的な離脱の可能性を口にしていること
だ。

■通貨同盟は為替リスクを排除するはずだったのに・・・

 だが、通貨同盟の核心は、それが撤回不能だということだった。
 同盟がもたらすはずの利益は、この点にかかっていた。
 離脱が議論されるようになれば、再び為替リスクが生まれる。

 RBSのリポートはさらに
 「離脱のリスクプレミアムを取るに足らないレベルに戻せるような政策の発表は何も見えてこない」
と論じている。
 投資家は今、ソブリン債務、金融、そして離脱のリスクに直面しているわけだ。
 現実になれば、結果として、ソブリン債務や銀行債券が一斉に売られるだろうし、資本市場が国ごとにバラバラになる可能性さえある。

 しかし、タブーが破られた以上は、離脱の可能性を検証しなければならない。
 では、離脱は可能なのか? 
 あるいは望ましいとさえ言えるのか?

 そうした議論はギリシャから始めなければならない。
 ニューヨーク大学スターン経営大学院教授のヌリエル・ルービニ氏は今週、本紙(英フィナンシャル・タイムズ)への寄稿で、ギリシャはデフォルト(債務不履行)してユーロ圏を離脱すべきだと主張した。

 筆者は1つ目の意見は難なく受け入れられる。
 ギリシャの公的債務の大幅な減額を避けられると思う人は、もうほとんどいないだろう。
 デフォルトは可能性の問題ではなく、時間の問題だ。

■ギリシャはユーロ圏を離脱すべきか?

 ギリシャの有力紙は先日、ヨルゴス・パパンドレウ首相はユーロ離脱の是非を問う国民投票を考えていると報じた〔AFPBB News〕

 だが、デフォルトはユーロ圏からの強制的な離脱を意味するのだろうか? 
 答えはノーだ。
 これはシティグループのウィレム・ブイター、イブラヒム・ラーバリ両氏が興味深いリポートで論じた点だ。

 ギリシャ以外のユーロ圏諸国や欧州中央銀行(ECB)が、ギリシャの銀行が資本を増強したり流動性を確保したりする対策に手を貸さなければ、実際に離脱は起きるだろう。
 そうなれば、新通貨の創設が不可避になる。
 だが、ギリシャのパートナー諸国はこのような結末を防ぐことができる。

 では、ギリシャは自国の利益のために積極的に離脱を求めるべきなのだろうか? 
 ここはエコノミストの意見が割れるところだ。

 ブイター氏は、通貨切り下げは無益だと考えており、切り下げの効果はインフレによって損なわれるのが落ちだと述べている。
 ルービニ氏は切り下げが不可欠だと考えている。
 筆者はルービニ氏に賛成だ。

 ギリシャは巨額の経常赤字を出すと同時に不況に見舞われている。
 その場合、大幅な実質減価が必要になる。
 実質減価は、コスト圧縮よりも通貨切り下げの方がはるかに容易に達成できる。

 しかし一方で、離脱というのは、実行に移すのが極めて難しい構想だ。
 法的には、ユーロ圏から離脱するには、欧州連合(EU)から離脱しなければならない。
 EUが後になってわざわざ不届き者を再び招き入れるようなことをするだろうか? 
 まずないだろう。
 その結果、ギリシャは恐らく単一市場からも締め出される。

■ユーロ圏離脱の莫大なコスト

 さらに言えば、迅速に手際よく離脱するのは不可能だということに気づくはずだ。
 離脱のニュースが伝われば、すべての債務が一斉に売られるだろう。
 政府は銀行を全面的に閉鎖しないまでも、銀行からの預金引き出しを制限しなければならない。

 また、政府は条約義務に違反して資本規制を導入する必要がある。
 国内で結ばれた債務契約は新通貨建てに切り替えられるが、外国で契約が結ばれた債務はそれができない。
 そうなると、多くの企業が破綻する。

 UBSのリポートは、ユーロ圏離脱の経済的なコストは、初年度で国内総生産(GDP)の40~50%に上ると試算している。

 危機の伝染も避けられない。
 恐らくは、離脱する国とその他の脆弱な国々との間に防火壁を設ける取り組みがなされるだろう。
 だが、防火壁は壊れるところまで試されることになる。
 何しろギリシャの債務の大半は、外国の機関や投資家が保有している。

 また、1カ国でも離脱すれば、イタリアやスペインさえをも含む、その他すべての脆弱な国で為替リスクが一段と現実味を増す。
 こうした国では、政府も企業も簡単には債券を発行できない。
 銀行は取り付け騒ぎに見舞われるだろう。
 欧州中央銀行(ECB)は無制限に融資せざるを得なくなる。

■ドイツのような強国が離脱したら・・・

 銀行が世界的に相互に結びついている状況は恐ろしく見える。
 国際決済銀行(BIS)によると、米国の銀行だけで、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペイン向けに4780億ユーロのエクスポージャー(投融資残高)を抱えている。

 というわけで、脆弱な小国が1つ離脱しただけでも恐ろしいことになる。
 では、ドイツのような強国が離脱したら、どうか?

 ここでも法的な問題が生じるが、ドイツは恐らく、自国の有利になるよう条約を変更できるだろう。
 ドイツが離脱しても、やはり大規模な逃避が起きる。
 この場合、資金がドイツ国内に逃げ込むのだ。
 さらに、ドイツの離脱は残ったユーロ圏諸国を不安定にし、恐らくは解体を招くことになるだろう。

 一方、筆者が先週のコラムで論じたように、強国も多大な衝撃に見舞われる。
 銀行は対外資産の目減りで損失を被り、輸出業者は大幅な競争力低下に苦しむことになるからだ。
 UBSの分析では、ドイツなどの強国は離脱の初年度にGDPが20~25%減少する可能性があるという。

■戻ることも進むこともできないユーロ圏

 さらに言えば、EU中核国によるユーロ離脱(そして少なくとも現行法の下ではEUそのものからの離脱)は、単一市場だけでなく、戦後欧州の協調という骨組み全体をも脅かす。
 ドイツとフランスは孤立し、戦略上、失われることになる。

 つまり、ユーロ圏は今いる場所にとどまることもできず、既にやってしまったことを元に戻すこともできず、トラウマが激しすぎて前進することもできないのである。

 だが、離脱という考えそのものが波乱要因となっている。
 彼らはユーロを作ってしまったのだから、今度はそれが機能するようにしなければならない。

 現時点で必要なのは、中核国の積極的な景気拡大だ。
 そのためにはECBが即刻金融政策を緩和すべきであり、それと平行して、流動性を欠く公債市場に直面している国々への強力な支援、場合によっては大幅な債務減額を行わねばならない。

 長期的には、最低限求められるのは、今よりずっと徹底した財政的な結束と規律、そして厚い自己資本を備えたユーロ圏全域をまたぐ銀行システムだ。

 これが実現可能なのかどうかは、筆者には分からない。
 だが、その成否に何がかかっているのかは分かっている。
 ユーロ圏はフライパンであぶられている現状を嫌がっている。
 だからと言って、火に飛び込んではならない。




ウォールストリートジャーナル 2011年 9月 20日 18:40 JST
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Finance/node_309188

【コラム】「リーマンショック2」封切り間近

 3年前、リーマン・ブラザーズはもろくも破たんした。
 この第1作も恐ろしかったが、IMAX3D、デジタルサラウンドで近日公開される第2作の恐怖にはそれをしのぐものがある。

 というのは、カナダのトロントに拠点を置くファースト・アセット・インベストメント・マネジメントの上級副社長兼ポートフォリオ・マネジャー、ジョン・スティーブンソン氏の見解である。
 同氏はリーマンショックのような金融危機が向こう6-12カ月のあいだに起こると予想する。
 前回との違いは、今回の危機の原因が財政赤字と欧州の銀行にある点だ。
 これが起きれば、株式相場は2008年秋にリーマンが破たんし、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が破たん危機に陥った直後のレベルまで暴落し得る、というのが同氏の見方である。

 スティーブンソン氏は電話インタビューで
 「そうなれば相場はあっという間に暴落し、かなり深いダメージを負うことになる」
と述べ、
 「前回の金融危機よりもひどいものになる。
 前回は政府に人々を救済する余裕があったが、もはやそのような能力はない」
と続けた。

 米国ではあまり知られていないが、筆者は同氏を賢明で信頼できるストラテジストだと思っている。
 保守的なカナダ金融界にどっぷりと浸かっている同氏は、カナダの資産運用マネジャー上位50人に選出されたこともある。
 その他の著名投資家もこの考えに賛同している。
 投資界の巨人、ジョージ・ソロス氏もその1人で、
 「今回の危機には、リーマンショックよりもずっと深刻な結果をもたらす可能性がある」
と述べている。

■救済措置の政治的ツケ

 スティーブンソン氏は、カーメン・ラインハート教授とケネス・ロゴフ教授の論文通り、金融危機はまず民間部門を襲い、政府が経済を守ろうとして銀行を救済すると、今度は公的部門がダメージを受けるのだと説明する。
 「この100年間に起きた金融危機の直後に顕著な特徴は政府債務の増加である」。
 両教授は2011年に発表した論文『A Decade OF Debt(債務の10年)』でこう書いている。
 「システミックな金融危機とソブリン債問題の両方、あるいはいずれかを抱える国は、平均債務レベルが約134%上昇する」

 これは納税者にとって大きな負担となり、ソブリン債の信用度を傷つけることになる。
 スティーブンソン氏はこう指摘する。
 「リスクが政府に転嫁されると、一般市民はどうして他人の過ちの報いを受けなければならないのかと疑問に感じる」

 確かにその通りで、特にドイツやその他の欧州北部諸国の国民はギリシャのような国々を救済することにためらいを感じている。
 彼らからすると、そうした国々はたかり屋でしかないのだ。
 「政治的に、ドイツは他国民を救済したいと思っていない」
とスティーブンソン氏は言う。
 こうした状況はアンゲラ・メルケル首相のような議員を苦しい立場に追い込んでいる。

 ユーロ圏の団結を強く主張するメルケル首相は不人気で、与党連合はいつ分裂してもおかしくない状況にある。
 そうしたこともあり、メルケル首相やその他の欧州首脳は本当に実施しなければいけないと思っていることを有権者に伝えるよりも短期的な措置を次々と打ち出し、根本的な対策を後回しにしてきた。(メルケル首相とフランスのニコラ・サルコジ大統領がギリシャのデフォルトを回避するための新方策を発表すると、15日の株式市場はこれを好感して値を上げた)

■比較的健全な米国

 今にして思えば、酷評された不良資産救済プログラム(TARP)や続いて実施されたストレステストのおかげで、米国の銀行は欧州の銀行に比べると健全な状態にある。
 「米国の取り組みの方が先を見越していた。
 2008年と2009年、米国の銀行はわけがわからなくなるほどの株式を発行した。
 一方の欧州の銀行は、資本構成を改めるチャンスをまったく生かそうとしなかった」
とスティーブンソン氏は言う。

 実際、欧州の危機はユーロのせいで悪化したという側面もある。
 欧州の銀行は、ギリシャやポルトガルといった国が発行できた超低金利の国債を購入した。
 当時はリスクが低いと思われていたソブリン債でわずかでも利回りを稼ごうとしたのだ。
 スティーブンソン氏によると、銀行は今日までまったく評価損を計上していないという。

 去年の12月の時点で、フランスの大手銀行はギリシャ国債で570億ドル弱、スペイン国債で1400億ユーロ、イタリアの社債・公債をすべて合わせて4000億ユーロ弱を保有している、とニコラ・ルコーサン氏が本紙に書いている。
 米国の三大銀行の債務総額は米国の国内総生産(GDP)の39%に相当するが、フランスの三大銀行の債務総額は同国のGDPの250%に相当する。

 14日、格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスはフランスの銀行、ソシエテ・ジェネラルとクレディ・アグリコルの長期債格付けを1段階引き下げ、さらに引き下げる可能性があることも示唆した。
 連邦準備理事会(FRB)を含む5つの中央銀行が協調し、ドル資金の追加貸付を通じて商業銀行に流動性を供給することになると、15日の相場は反発した。

■再度拡大する金融危機

 それでも大きな試練が近々やって来るかもしれない。
 ギリシャのソブリン債のクレジット・デフォルト・スワップは、デフォルトの可能性が92%であることを示している。
 スティーブンソン氏は
 「市場が債務不履行になるとみているのは明らかだ」
と述べた。

 ギリシャのデフォルトは出血を止めるどころか、さらなる出血を招くことになると予測する同氏は、スペインとイタリアは
 「大きすぎて潰せない、大きすぎて救済できない」国だと指摘する。
 その上、どれだけ多くのデリバティブ契約にユーロ圏のソブリン債や社債が組み込まれているのかはまったくわかっておらず、その影響は世界的に拡大し得るという。
 「一度デフォルトが起きれば、欧州の金融危機が米国、カナダ、オーストラリアの金融危機になることは想像に難くない」
と同氏は言う。
 米国の銀行のようにばかげたリスクを冒すことを避け、本物の銀行家のように行動したおかげで最初の金融危機を免れたカナダでさえ危ないのだ。

 スティーブンソン氏は、欧州が来年までに再び景気後退に入り、米国は緩やかな成長でやり過ごせるかもしれないと考えている。
 だとしたら、新興国市場はどうなるのか。
 「短期的にはかなりの打撃を受けるだろう。
 すべての短期資金が消えてなくなるのだから」

 これは「唯一の安全な避難先となるであろう」米国ドルにとっては朗報である。
 しかし同氏は、長期的にはあらゆる紙幣通貨に、特に機能不全に陥っているユーロには弱気で、銀と金には強気である。
 同氏は個人的なポートフォリオの60%を占めるキャッシュも選好しており、欧州、米国、カナダ、オーストラリアといった地域や国々のあらゆる銀行をショートにするのも得策だと考えている。
 同氏のS&P500指数の目標値は800前後で、これは2008年11月頃のレベルである(2009年3月には700を下回った)。
 S&Pトロント総合指数は8000まで下がるとみている。

救命ボートを準備しろ

 筆者はスティーブンソン氏のハルマゲドン的な予測を完全に信じているわけではない。
 小さな悪材料が長期間に渡って出続け、突然パニックが起こるというパターンもあるだろう。
 いずれにしても、筆者はこうしたことを懸念して、この晩春に株式の保有高を減らした。

 S&P500指数は1100台を下回ることなく、よく持ちこたえているが、一度1100を割ると1020ぐらいまで落ち込み、さらに下げ得る弱気相場に突入する可能性が高い。
 したがって筆者は、市場が反発した局面で、リスクが大きい資産を売り続け、この危機の成り行きを見守っていくつもりである。
 「唯一の驚きは、もっと早くにこうならなかったことだ。
 圧力が高まればダムは耐え切れなくなる」
とスティーブンソン氏は言う。

 同氏が言うことが正しければ、救命ボートのロープをほどいて、救命胴衣の準備をするときが来たのかもしれない。
 ジェームズ・キャメロン監督が『タイタニックII 』を制作することはなかったが、作るとしたら今だろう。
 同じ船が2度沈むなどということは、市場と映画でしか起こりえないのだから。

(執筆者のハワード・ゴールド氏はマーケットウォッチのコラムニストであると同時に、MoneyShow.com.の総合監修者でもある)








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