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JB PRESS 2011.09.05(月)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/21181
2011年9月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
英国経済、1930年代をも上回る恐慌に
回避する術は本当にないのか?
現在の英国の恐慌(ディプレッション)は、少なくとも第1次世界大戦以降では最長となる。
成長率が劇的に上昇しなければ、「大恐慌」を上回る国内総生産(GDP)の累積損失を生む可能性も高い。
それだけでも十分に憂慮すべき事態だ。
それ以上に気がかりなのは、そうした予想を変える術はほとんどないという、ほぼ普遍的な見解である。
景気後退は経済が縮小する期間だ(リセッションの語源は「後退」を意味するラテン語)。
これに対して恐慌は、GDPが当初の水準を下回っている期間と定義できるかもしれない。
最近、3人の研究者がGDPの月次試算データを使って、こうした定義に基づく英国の恐慌を分析した*1。
現在イングランド銀行の金融政策委員会の委員を務めるマーティン・ウィール氏ら論文の筆者3人はこれで、1920~24年の恐慌に始まり、現在の恐慌に至るまでの英国の恐慌の規模と継続期間を分析することができた。
■過去1世紀で最も長い恐慌になるのは確実
過去1世紀で最も長かった恐慌は、1979年6月~1983年6月(マーガレット・サッチャー政権下)の恐慌と1930年1月~1933年12月(大恐慌)の恐慌だった。
現在の恐慌が過去最長の前例より短くなるためには、2012年4月までに終わっていなければならない。
だが、その期限まで残すところ8カ月となっても、GDPは起点を4%近く下回っている。
たとえ経済成長率が今すぐ年率4%に跳ね上がったとしても、恐慌が終わるまでにはさらに1年間かかる。
成長率が年間1.5%であれば、恐慌は72カ月間続くことになり、過去1世紀で最も長かった恐慌よりざっと 50%も長くなる。
恐慌の大きさは、起点と比べた落ち込みの険しさで評価することもできるし、GDPの累積損失で評価することもできる。
落ち込みが最も険しかったのは1920~24年の恐慌で、それに続くのが、GDPが最大7.1%減少した大恐慌だ。
だが、今の恐慌はそれよりわずかに劣るだけで、GDPが6.5%落ち込んでいる。
GDPの累積損失では、今回の恐慌は1930年代よりも大きくなる可能性が高い。
当時は累積損失がGDPの17.7%だったのに対し、今回はこれまでで14.5%となっている。
しかし、この恐慌は終わっていない。
もし成長率が年間2%であれば、累積損失はGDPの18%を超えることになる。
つまり、これは英国の基準からすると巨大な恐慌だ。
ところが、それに対する反応は肩をすくめるような無関心さだった。
この苦難は不可避だったか自業自得だった、あるいは、その両方だったというのが一般的な見解のようだ。
■巨大な恐慌にあきらめのような悲観論
確かに、近代福祉国家のクッションがあるおかげで、今の恐慌のショックは戦間期の恐慌よりずっと軽微なものにとどまっている。
また、1980年代前半と比べて雇用実績が良いことも、当時の不況よりは現在の苦痛を小さくしている。
それでも今回の恐慌の規模と長さは衝撃的である。
さらに悪いことに、当初はほとんど誰も予想しなかった状況が、今ではほぼ修復不能と見なされている。
多くのアナリストは、潜在GDPがGDPそのもの(実際のGDPは2008年以前のトレンドを優に10%以上下回っている)と同じくらい落ち込んだと考えている。
ケンブリッジ大学ビジネスリサーチセンターのビル・マーティン氏は重要な論文*2で、こうした悲観論を強烈に批判している。
同氏の結論は、問題は潜在供給力ではなく、需要の激減だったというもの。
さらに悪いことに、生産が落ち込んだ状態が長引けば長引くほど、潜在供給力が不必要に損なわれる可能性が高まると指摘する。
マーティン氏は、トレンドに対するGDP損失の3分の2以上が潜在GDPの落ち込みによるものだというコンセンサスを観察したうえで、それとは異なる、より説得力のある説明をしている。
「失業率の上昇を食い止めつつ、全体的な収益性を許容範囲に収められるほど実質賃金が低下する需要不足の経済では、構造的に弱い経済の特徴でもある低い生産性が表れる可能性がある。
需要不足のために売り上げを増やせないと、産業は低い生産性に甘んじるかもしれず、その状況が持続すると、政策当局者が誤って経済の潜在生産性の低下と解釈することになる」
危険をもたらすのは、マーティン氏が「貯蓄家の戦い」と呼ぶものだ。
民間部門は債務を返済してバランスシートを改善しようとしている。
政府も今、赤字に怯えて同じことをしようとしている。
活動の不振が長引くことなく、これが両立し得るのは、経済の対外収支が大幅な黒字に転換する場合に限られる。
しかし、英国の貿易相手国の弱さを考えると、それ以上にあり得ない話はないように思える。
■破滅の予言に気をつけろ
英国は今、過去1世紀以上にわたる恐慌の中で、確実に最も長くなり、相当ダメージが大きい恐慌の真っ只中にある。
前例と比べた場合の今回の恐慌の特徴は、恐ろしいほどの回復局面の弱さだ。
その原因は、潜在供給力の激減ではなく、需要の弱さである可能性の方がはるかに高い。
だが、打てる手はほとんどないというのが一般的な見解だ。
そのような破滅の予言には気をつけた方がいい。
そうした予言はいとも簡単に、自ずと現実と化してしまうものだ。
By Martin Wolf
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需要が伸びない!
成長期を抜けて成熟期に入ったら、需要は伸びないのがあたりまえ。
すでにモノがありあまっているのだから、さらに「モノを買え」って言ったって無理というもの。
現在の経済学は成長を理論化する経済学であって成熟を理論化する経済学ではない。
成長経済学で成熟期の社会状況を理論化しようとすると、とんでもない結論が導き出てくる。
「モノあまりで、もうモノはいらない」、というのが成熟社会。
とすれば、よほどのものを作り出さないと、売れるモノにはならない。
モノの生産にベースを置く経済学は過去のものになっている、ということ。
理論的に生産ベースの経済学はすでに成長しきっているということ。
ところが、世の中、生産にベースを置かない経済が出始めてきている。
その変化をみてとれない古典経済学では、とてもも現在の状況は分析できない。
分かるのはモノを作り続けることによって経済が回っている、中国レベルの経済。
ここでは経済学の理論がものの見事にフィットする。
が、それを日本などにあてはめると、トンチンカンな答えになってしまう。
脱資本資本主義、
それが今求められて経済学。
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