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記事入力 : 2011/08/22 18:26:09
http://www.chosunonline.com/news/20110822000070
【熊野英生の日本通信】人口動態と産業発展
産業発展に法則性があることはよく知られている。
歴史を振り返ると、産業の中心が農業だった時代は、資本主義が進むとともに工業社会へ移行する。
そして、次に向かった先がサービス社会である。
経済のサービス化は、ポスト工業社会とか、脱工業社会と呼ばれる。
こうした産業の世代交代は、就業人口の労働移動で測られる。
日本の就業者は、1990年代初頭までの高成長時代に、特に製造業の就業者数が多く増え続けていた。
それが、ここ20年間で大きく様変わりする。
製造業はピーク時の1990年には1,464万人(構成比23.7%)だった就業者が、2010年には953万人(構成比16.3%)と▲35%も減ってしまう。
代わりに大きく増えたのがサービス産業である。
日本の製造業からサービス業への就業人口が労働移動は、1990年代初頭のバブル崩壊以降の景気低迷の中で静かに、しかも着実に進んだ。
次に、このサービス化の内容をもっと仔細に検証したい。
サービス化の特徴として、製造業から非製造業へという変化ではなく、サービス以外の産業からサービス業へと変化したことに注意をしたい(図表1)。
非製造業の中では、卸売業・小売業がともに2000年から2010年までの10年間でみると就業者数を減らしている。
非製造業の中で、突出して就業者を伸ばしている産業は、医療・福祉業に限られる。
2000年の医療・福祉業の就業者数は423万人で、それが2010年には617万人へと1.44倍にまで膨らんでいる。
サービス化の正体は、医療・福祉業への国民のニーズのシフトを暗示している。
では、なぜ、医療・福祉業、正確に述べれば医療・保健・福祉・介護といった分野に就業者が集中していくのか。
その理由は、人口が高齢化するとともに、高齢者が欲しがる医療・福祉のニーズも強まって、消費者需要のサービス化へのシフトが起こるからだと説明できる。
ここで勘違いしないようにしたいことは、サービス産業が成長する理由は、決してサービス業が魅力的な成長分野であるから需要が増えている訳ではなく、人口が高齢化して消費者の志向が物からサービスへ、娯楽から健康へと移り変わっていることによるという点である。
■高齢者ビジネスは高収益が得にくい
日本では、ここ数年、政府が医療・福祉分野は新しい経済成長分野だと宣伝している。
これは、先に見た就業者数の変化を根拠に、医療・福祉産業が発展していると判断しているからだ。
筆者は、これは大きな勘違いだと考える。
国民のニーズが医療・福祉に移っていくとき、当然、そこに就業者の増加がついてくる。
イノベーションがあるから医療・福祉業が発展するのではなく、単に人口動態の変化に伴う労働市場の質的変化が起こっているに過ぎない。
有力な反証事例を挙げると、医療・福祉業の就業者1人当たりの労働生産性(=名目付加価値/就業者)は著しく低い。
全産業平均の労働生産性は、2009年度564万円である。
医療・福祉業は342万円と全体平均よりも4割低い(図表2)。
業種別に比べると、製造業の労働生産性の半分しかない。
もしも、労働移動が、生産性の高い製造業から、生産性の低い医療・福祉産業へと労働移動が起こるとすれば、日本経済はより低生産性へと移り変わっていることになる。
1人当たりの勤労者が貧乏になっていくような産業発展を、「医療・福祉業の発展が成長戦略だ」などと言っているのは、全くおかしなことである。
問題なのは、なぜ、医療・福祉業の就業者が低い労働生産性を余儀なくされているかである。
ここは、政府の規制の作用が大きい。
例えば、病院は、基本的に患者が医薬品・医療サービスに対して診療報酬に応じて支払っている医療保険料で事業を行っている。
診療報酬は政府が管理していて、事業者が介在して決めることができない。
政府は、医療・福祉のユーザーである高齢者が、なるべく自己負担をしたくない、あるいは保険料を引き上げてほしくない、という意向を強く受けている。
そのため、医療保険・健康保険制度は赤字体質になりやすく、事業者も大きな儲けを得られないである。
医療・福祉業で働く就業者も、事業者の低収益構造を反映して、低い労働生産性の中で低賃金を強いられる。
サービス事業者が労働生産性を向上させるためには、サービスの質を高めて高価格を実現しないと不可能である。
公的管理が強い分野では、サービスの質で競争するのではなく、最低限の質を確保しつつ低価格・低コストでやりくりすることを強いられる。
90年代以降の日本の医療・福祉業は、とてもイノベーションを起こして高品質・高価格を実現できる環境ではない。
特に、政権の政策がリベラル色を強めて、高齢者の声にまじめに耳を傾けるときには、医療・福祉業は規制を強められて高収益ビジネスができなくなる。
人口が高齢化していくことは、産業が人口動態の影響を受けて、必ずしも労働生産性の高くない医療・福祉産業に多くの労働力が固定化させる。
それが今までのところ日本の生産性をじりじりと低下させている。
政治のリベラル化・需要の高齢化が、民間企業行動を制約する成人病であることはきちんと認識されなくてはいけない。
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