2011年10月5日水曜日

暗黒エネルギーとは、

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● Ia型超新星が輝く銀河NGC5584。ハッブル宇宙望遠鏡が撮影。



National Geographic News October 5, 2011
http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article_enlarge.php?file_id=20111005002

なぜ宇宙は加速的に膨張しているのか

 上がったものは必ず下がる。
 重力の基本法則に異議を唱える人など、およそこの世には存在しない。
 しかし、4日に2011年のノーベル物理学賞を受賞した3人の科学者の研究内容は、重力の暗黒面を解き明かすものだった。

 新たにノーベル賞受賞者となったアメリカのソール・パールマッター氏とアダム・リース氏、そしてオーストラリアのブライアン・シュミット氏は、宇宙が単に膨張しているだけでなく、加速膨張しているという発見に貢献した。

 この発見が、現在では広く受け入れられている暗黒エネルギーの理論に繋がった。
 暗黒エネルギーとは、重力に反発する不思議な力だ。
 これまでの観測結果は、宇宙の全物質の約74%を暗黒エネルギーが占めることを示している。

 今回の受賞理由となった発見から10年以上過ぎた現在も、暗黒エネルギーとは何なのかを突き止め、現代物理学の「最も難解」とされる問題を解き明かそうとする取り組みは続いている。

◆重力は異なる働きを持つのか?

 暗黒エネルギー理論が登場するまで、物理学者たちは重力によって宇宙の膨張速度が鈍るはずだと確信していた。

 宇宙望遠鏡科学研究所(STScl)の理論物理学者マリオ・リビオ氏は、2008年に開催された暗黒エネルギーの10年を語るシンポジウムで、
 「鍵を空中に放り上げれば、地球の重力によって上昇速度が落ち、やがて自分のもとに戻ってくる」
と話を切り出した。

 しかし、遠方にある超新星の光を研究した結果、それら超新星の属する銀河が、互いに加速的に離れていると判明した。
 宇宙の膨張速度が実は増大しているという観測結果は、たとえて言うなら
 「放り上げた鍵が、速度を上げて天井に向かって突進する
ようなものだとリビオ氏は説明した。

 これまでのところ、暗黒エネルギー研究者にとって最も大きな難題の1つは、観測結果に理論を結びつけることだ。
 シカゴ大学の宇宙学者マイケル・ターナー氏は、
 「2つの解釈があるが、とても満足できる内容とは言い難い」
と語る。

 1つの可能性は、暗黒エネルギーは存在せず、重力の働きが科学者の現在の理解とは異なるというものだ。
 しかし今回ノーベル賞を共同受賞したSTSclの宇宙学者アダム・リース氏はナショナルジオグラフィック ニュースの取材に対し、
 「物理学者は保守的だ。
 これまでの重力理論を捨てようとせず、修正で済むならそうしたがる」
と話す。
 「基本的には、宇宙の仕組みを説明できる比較的単純な方程式が存在するという事実に帰着する。
 (宇宙の膨張が加速しているという)新たな現象から導かれるのは、これが方程式の左辺に存在し、重力の理解が足りなかったということか、これは方程式の右辺に当てはまり、何か別の物質が存在するということだ」。

◆暗黒エネルギーとは量子真空の産物か?

 ここで言う別の物質とは量子真空エネルギーのことで、暗黒エネルギーを説明する有力候補の1つだ。

 この考え方は量子力学と強い関係がある。
 量子力学では、真空の空間においても、定常的に粒子の生成と消滅が発生しエネルギーを生み出していると予測されている。
 問題は、非常に小さな世界の物理を説く量子力学で用いる数学と、大きな規模の相互作用を扱う一般相対性理論の方程式を、誰も統一できなかったことだ

 「2つの理論は異なる決まりを用いており、それぞれの決まりが両立しないことは理解していた」
とリース氏は述べる。

 ところが、
 「暗黒エネルギーは、両方の決まり事を使わなければ、どうしても説明のつかない希有な例だ」
という。

◆超新星爆発光の計測

 研究者たちは、Ia型超新星の研究で初めて宇宙の加速膨張を観測した。
 Ia型超新星とは、重力崩壊で最後を迎える白色矮星のことだ。
 Ia型超新星の爆発は、いずれもほぼ同じ明るさを示すことが分かっている。

 地球から最も離れた超新星の爆発光は、宇宙の膨張によって引き伸ばされるために赤く見える。
 この現象を赤方偏移という。
 赤方偏移が強ければ強いほど、爆発光は長い時間と距離を旅してきたことになる。

 できる限り多くの超新星を観測することで、銀河が互いにどのくらいの速度で離れているのかを理解する助けとなる。
 こうした超新星の研究によって、暗黒エネルギーが最大90億年前から銀河に影響していたと分かるようになった。

 「何より大事なことは、宇宙膨張の経過についてより多くの観測を行い、それぞれの精度を上げて、暗黒エネルギーの働きを理解するために、より緻密なモデルを作ることだ」
 とリース氏は語った。

 研究の重要な目的は、宇宙空間におけるエネルギーの密度と圧力の比率を導き出すことだ。
 これは方程式のなかで、「w」の文字で表される。
 リース氏によると、その値を割り出せば
 「物質がどんな重力を持つのか、それが引き合うのか反発し合うのか、そしてどのくらい強い力なのか」
知ることができるという。

 「(暗黒エネルギーが)真空エネルギーだとすれば、wの値は常に変わらず-1になり」、
量子力学予測と一般相対性理論に沿った結果になる。
 そうでない場合は、決まり事を書き換える時期が来たことになる。


 「決まりごとを書き換える」とは。
 物理法則がガラリとひっくり返るということになる。
 つまり、新たなコペルニクス的展開がもたらされる、ということになる。
 そのとき、物理学はどんな姿になるのだろう。


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